登山コースタイム計算式 調査レポート

CoCoMap 標準コースタイム表示機能の設計検討(2026年6月)

⚡ 結論サマリー

  1. YAMAPの計算式を採用すべき。査読論文(登山医学 Vol.42, 2022)に掲載済み、日本の登山道GPSログ80万件で校正済み、運動生理学ベース。日本の登山アプリで唯一、客観的根拠のある計算モデル。
  2. ヤマレコは独自計算ではない。山と高原地図のコースタイムをそのまま使い、ユーザーログとの倍率(「歩くペース 0.8倍」など)を表示しているだけ。
  3. ヤマップ ≒ 山と高原地図 × 1.18〜1.25 程度(保守的)。ヤマレコ「タイム1.0」=山と高原地図 ≒ ヤマップ × 0.82。両者は同じ基準で表現が違うだけ。
  4. ヤマップが「保守的」と言われる理由は意図的設計:6メッツ・350m/h(初心者でも安全に持続できる強度)を基準に設定したため。心臓発作リスク回避を明確に意識。
  5. 難易度補正(岩場 ×1.3〜1.6、砂礫 ×1.2、木道 ×0.95 など)は長野県信州 山のグレーディング(A-E)に準拠するのが現実的。
  6. CoCoMap実装案:YAMAP式をベース計算、UI上で「山と高原地図モード」(×0.82)「健脚モード」(×0.6)など切替可能に。

1. 各サービスのコースタイム算出ロジック

1.1 ヤマレコ「コースタイム 1.0」

ヤマレコの「コースタイム1.0」は独自の計算モデルではない。山と高原地図に掲載されている標準コースタイムをそのまま「基準値1.0」として使い、ユーザーログの実走時間との倍率を表示する仕組み。

「ヤマレコは厳しめ」と感じる理由:山と高原地図のCT自体が「40-60歳経験者・休憩抜き・夏山晴天」基準で元々タイト。ヤマレコ独自の計算でタイトにしているわけではない。

1.2 ヤマップ「標準コースタイム」(2023年改定版)

2023年にユーザーGPSログ約80万件を分析し、独自の運動生理学モデルを構築。査読論文として公表されている。

区間計算式斜度sの範囲
上り(s ≥ 0)(151s² + 65s + 19) × d [分]0 ≤ s ≤ 0.4
下り(s < 0)(137s² − 16s + 19) × d [分]−0.4 ≤ s < 0

s = 斜度(tan θ、無次元)、d = 区間距離 [km]

「YAMAPが保守的」の根拠:6メッツ・350m/hという「初心者でも無理ない設定」を明示的に置いている。山本正嘉教授の研究で7メッツ以上で心臓突然死リスクが急増するため、その閾値の手前を狙っている。安全側に振った意図的設計。

1.3 山と高原地図(昭文社)

公式が明示する計算式は存在しない。各地図エリアを担当する執筆者(地元山岳ガイド・ベテラン登山者)が現地踏査と経験則で設定し、編集部が校正する。

昭文社が明言する基準:

近似経験式(登山入門系サイトで紹介される値):

CT[h] ≈ 上り標高[m]/400 + 下り標高[m]/800 + 水平距離[km]/4

つまり上り400m/h、下り800m/h、平地4km/h。Naismith(600m/h)よりやや遅く、YAMAP(350m/h)よりは速い、中間値。1965年創刊、60年以上の改訂蓄積で業界標準として扱われている。

2. 既存の計算モデル比較

モデル計算式の核平地速度 上り速度特徴
Naismith (1892)線形和5 km/h 600 m/h最古・スコットランド。下り無視
Naismith + Langmuir下り補正追加5 km/h 600 m/h急な下り(>12°)で +10分/300m
Tobler (1993)6e^(−3.5|s+0.05|)5 km/h 指数減衰斜度の指数関数。スイス Imhof データ
Munter(スイス山岳ガイド)行動単位の概念4(平), 6(下) 4(登)シンプルだが極限値で不正確
山と高原地図(近似)線形和(経験則)4 km/h 400 m/h日本登山業界の事実上の標準
YAMAP(斎藤+山本 2022)二次多項式 3.16 km/h350 m/h GPS実測80万件由来、唯一の査読論文 ⭐
山本正嘉「コース定数」負荷指標 CT算出ではなく体力負荷の評価

同条件で試算(距離10km, 上り800m, 下り800m)

モデル推定時間備考
Naismith3:20下り無視
Naismith + Langmuir3:47下り12°仮定
Tobler3:00平均勾配8%仮定
Munter4:30R=4
山と高原地図 近似5:30業界標準
YAMAP4:52平均斜度0.16想定
Naismith / Toblerは海外モデルで速めに出る。日本の登山者層(中高年中心、団体行動、安全マージン重視)には合わない。日本のサービス(山と高原地図、YAMAP)が 4.5〜5.5時間を出すのが現実的。

3. ルート難易度による補正

各サービスの難易度補正の状況

サービス難易度補正の扱い
山と高原地図執筆者の現地経験で個別に長めに設定(公式の係数表なし)
YAMAP整備された一般登山道を基準とし、岩場等は別途設定(係数非公開)
ヤマレコ山と高原地図を継承するので、地図側の補正に依存
信州 山のグレーディング体力度(1-10) × 技術難易度(A-E) の2軸マトリクス(独立指標)

業界で共有される目安係数(参考値)

地形タイプ補正係数
観光遊歩道・舗装路×0.85〜0.95高尾山1号路
木道・湿原×0.90〜1.00尾瀬
整備された一般登山道×1.00(基準)大半の一般道
急斜面の整備された階段×1.05〜1.15雲取山
砂礫地・ザレ場×1.15〜1.25富士山、御嶽山
沢沿い・徒渉あり×1.20〜1.40飯豊・朝日連峰
残雪・雪渓(夏)×1.30〜1.60白馬大雪渓
鎖場・ハシゴ×1.30〜1.60戸隠山、両神山八丁、剱岳カニ
岩稜帯×1.40〜1.80穂高、北鎌、ジャンダルム
ブッシュ・薮漕ぎ×1.50〜2.00バリエーションルート
一般的雪山(冬)×1.50〜2.50ラッセル深さ次第
推奨:信州 山のグレーディング A-E に準拠した離散カテゴリ採用が現実的。
A=0.95 / 標準=1.00 / B=1.10 / C=1.25 / D=1.45 / E=1.70

4. ユーザー評価と体力層適合

サービスフィットする層特徴
山と高原地図 40-60歳の経験者、中堅以上 休憩抜き正味時間。1965年からの蓄積で業界標準
ヤマレコ 同上 + ログ蓄積派 山と高原地図を継承。倍率0.8〜1.2で個人差表示
YAMAP 初心者〜中級者、高齢者、ファミリー 意図的に保守的。安全マージン優先設計

knjr の実測比較(南アルプス縦走)では、両アプリで合計CTはほぼ同等だが区間別で差があり、特に「上りは緩く(過小評価)、下りはタイト(過大評価)」傾向と指摘されている。

5. CoCoMap向け 推奨実装

5.1 採用すべき計算モデル

結論:YAMAP方式(査読論文ベース)を採用

5.2 実装コード(Dart疑似コード)

/// 区間 (距離 d_km, 標高差 dh_m, 上り=正) のCT[分]
double sectionCT(double d_km, double dh_m, double difficultyFactor) {
  if (d_km <= 0) return 0;
  final s = (dh_m / 1000.0) / d_km;       // 斜度 (tan θ)
  final sClamped = s.clamp(-0.4, 0.4);    // YAMAPモデルの有効範囲

  double minPerKm;
  if (sClamped >= 0) {
    minPerKm = 151 * sClamped * sClamped + 65 * sClamped + 19;  // 上り
  } else {
    minPerKm = 137 * sClamped * sClamped - 16 * sClamped + 19;  // 下り
  }

  return minPerKm * d_km * difficultyFactor;
}

5.3 体力レベル係数(ユーザー設定)

レベル係数備考
かなり速い(健脚)×0.55〜0.60ヤマレコ「0.6倍」相当
速い×0.80ヤマレコ「0.8倍」相当 = 山と高原地図 = ヤマップ×0.82
標準×1.00YAMAPデフォルト
ゆっくり×1.20初心者・休憩多め
かなりゆっくり×1.30〜1.40シニア・小学生連れ

5.4 「他サービス互換モード」係数

モード全体倍率用途
YAMAP標準モード×1.00デフォルト。安全側、保守的
山と高原地図モード×0.82紙地図に慣れたユーザー向け
ヤマレコ「1.0」モード×0.82山と高原地図と同等

5.5 CoCoMap向け推奨実装まとめ

  1. 計算式:YAMAP方式 (151s²+65s+19) × d (上り)/(137s²−16s+19) × d (下り)
  2. 区間ごとに距離d_km・標高差dh_mを計算 → 斜度s = dh/(d×1000) → 上記式で区間CT[分]を算出して合計
  3. コース定数も併せて表示:CK = 1.8t + 0.3D + 10↑ + 0.6↓
    • 10=初心者向け / 20=一般 / 30=健脚 / 40+=1泊推奨
  4. 難易度補正:A-E相当(0.95〜1.70)、残雪・砂礫・沢などは追加で×1.2〜1.6
  5. 体力プロファイル:×0.6 / 0.8 / 1.0 / 1.2 / 1.4 から選択
  6. 山と高原地図モード:全体×0.82で紙地図派ユーザーにも対応
  7. 自分のペース倍率を学習:記録が貯まれば自動で体力係数を更新(ヤマレコ「歩くペース」相当)
  8. 保守的をデフォルト:安全側を選び遭難・心臓発作リスクを下げる
  9. 岩場・鎖場はDB側で個別CTを持つのがベスト(区間係数だけでは精度限界)
  10. CT表示は範囲(例:4:30〜5:30)にすると期待値マネジメントに有効

6. 参考一次資料

YAMAP公式・論文

ヤマレコ公式

山と高原地図・昭文社

山本正嘉教授・コース定数

長野県信州 山のグレーディング

海外モデル

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